バイトとして雇った大学生に妻を寝取られた話【長編】②

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の続き

・・・妻の告白の後、しばらくは一応、平穏な日々が続きました。
妻は一生懸命に、わたしの妻として、また仕事のパートナーとして、
娘を持つ母としての務めをまっとうしようとしていました。
そんなある夜、わたしは久々に妻を抱く決意をしました。

わたしが誘うと、妻は、
「うれしい・・・」
そう言って微笑み、パジャマを脱ぎ出しました。
わたしはゆっくりと裸の妻を愛撫しました。
妻の秘所はすぐに潤い始めます。

「もう・・・来てください・・・」
妻は切なそうに眉根を寄せ、わたしを求めます。
しかし・・・肝心のわたしのペニスはなかなか勃起しません。
妻の膣に挿入しようとするたび、ペニスは勢いをなくしました。
やっきになって何度試してみても、縮こまったそれは妻の膣からこぼれてしまうのです。

あのときに見た、勇次のペニスが頭に浮かんでいました。
隆々とそびえ立ち、妻をおもうがままに啼かせ、悦ばせていたペニス・・・。
そんなイメージが広がるたび、わたしはますます萎縮していくのでした。
情けないおもいでいっぱいのわたしに、妻は必死な顔で、

「おくちでさせてください」と言いました。
そしてわたしを立たせておいて、妻はその前にひざまずき、ペニスを口に含みました。
そのまま、口を窄めて、前後に顔を動かします。
唇でしごきながら、口中では舌でわたしの亀頭を嘗め回しています。

以前の妻はこのようなフェラチオをしたことがありません。
もっとたどたどしく、口に含んでいるだけで精一杯という感じの、いかにも未熟なものでした。

フェラチオの最中、妻はわたしを上目遣いに見つめています。
昔は、恥ずかしがってかたく瞳を閉じていたものなのに。
ときどき、尻を左右にゆすっていたのは、
わたしを少しでも興奮させようとしていたのでしょうか。

妻の様々な行為、それはわたしを悦ばせようとする、懸命な行為だったのでしょう。
しかし、同時にそれは妻に刻印された勇次の指紋のようにわたしは感じてしまうのです。
明らかに、勇次に仕込まされたと分かる、妻の淫婦めいた行為は、わたしを興奮させ、また別のわたしを萎えさせるのです。

さらに妻は、自分の両方の乳房を下から両手で持ち上げました。
妻は顔に似合わず、豊かな乳房をしています。
いよいよ熱誠こめてフェラチオをしながら、
妻はその豊満な乳房を持ち上げ、
乳首の突起したそれをわたしの腿に擦りつけるのです。

ことここに至って、わたしのペニスもようやく力を取り戻しました。
妻を布団へ押し倒し、挿入します。
不器用に腰を動かすと、それでも妻は悦んでしがみついてきました。
「あんっ、いい、気持ちいいです・・・あっ、そこ・・そこがいいです、ああん」
以前は喘ぎ声を出すのも恥ずかしがって、
顔を真っ赤にしながら声を押し殺していた妻が、
いまでは手放しによがり、喘いでいます。
これも勇次に仕込まれたことなのでしょうか・・・。

わたしの中のある者は、そんなどこか冷めた目で妻の姿を眺めていました。
しばらくして、子供が目を覚ますのではないかと心配になるほど妻は一声高く啼いて、いきました。
はあはあ、というお互いの息遣いが聞こえます。

妻はわたしの胸元にくるまるように身を寄せています。
その表情は、ここしばらく見たことがないほど、幸福そうでした。
わたしがじっと見つめていると、妻は薄目を開けて、
照れたようにわらい、甘えるようにわたしの乳首をやさしく噛みました。
「気持ちよかったか?」
「すごくよかった・・・」

「そうか・・・」
「あの・・・」

「なんだ」
「・・・明日もしてほしいです」

わたしは腕をまわして、妻の頭を胸に引き寄せました。
そのとき、薄闇の中でわたしの顔は、
どうにもならない空虚感と哀切感で、
惨めに歪んでいたことでしょう。

無邪気に幸福に浸る妻を抱きしめながら、
わたしは妻とわたしの間に引かれてしまった、
越えられそうにない溝の存在を強く強く感じていました。

 

***

あれから妻は夜になると積極的になり、わたしを求めてくるようになりました。
以前は自分から求めるなどということは一度もなかったのですが・・・。
わたしは、年齢的なこともあり、正直に言って連夜にわたる情交はきついものでした。
妻が見せる淫蕩ともおもえる振るまいに、
一時的には我を忘れて妻を抱くのですが、
終わると言いようのない虚しさと疲れがおそってくるのです。

しかし、わたしはそれを妻に悟られまい、としていました。
妻の求めを拒んだり、疲弊した自分を見せることは、
妻に勇次をおもいださせ、若い勇次に比べ、
老いたわたしの男としての物足りなさを妻に感じさせることになるとおもいました。
わたしにとって、それはこのうえない恐怖でした。

そんな無理のある夫婦生活は、遅かれ早かれ、破滅に至るものだったのでしょう。
しかし、それはあまりに早くやってきました。
夏のある日のことでした。

 

 

 

いつもの外回りがその日はかなり早くに済み、わたしは妻がひとりでいる店へ戻りかけました。
そのときでした。
勇次がふらりとわたしたちの店の中へ入っていくのが見えたのです。
わたしは心臓の高鳴りを感じながら、車を店から少し離れた場所へ置くと、
店の出入り口とは反対側にある家の勝手口から家の中へそっと入りました。
店のほうから勇次の声がしました。
わたしはゆっくりその方へ近づきます。

勇次が妻へ話しかけています。
妻はわたしに背を向けていて、その表情は見えません。
「もう帰ってください・・・主人が」
妻が動揺した声でそう言っています。

「いいじゃないか。旦那はまだ帰ってくる時刻じゃないだろ。それよりどうなの? きょうはパンティ履いてる?」
「・・・・・」

「おれが店に入っているときは、寛子にはいつもノーパン、ノーブラの格好で仕事をやらせてたよな」
「もうやめて・・・終わったことです」

「寛子は見た目と違ってスケベだからな〜。
おれが耳たぶとか胸とかちょっと触ってるだけで、
顔を真っ赤にして興奮してたよな・・・
一度なんか、娘さんを幼稚園へ迎えに行く時刻だってのに、
おれにしがみついてきて
『抱いてぇ〜、抱いてぇ〜』なんて大変だったじゃないか」
勇次はにやつきながら、妻の近くへ寄りました。
わたしはその場へ飛び出そうとしました。
そのとき、勇次がこんなことを妻に聞いたのです。

「あのときはあんなに燃えて、おれに好きだとか愛してるとか言ってたじゃないか。
あれは嘘だったのか?
寛子はただ気持ちよくなりたいだけで、おれと付き合っていたのか?
おれのことはもう嫌いになったのか?」
妻はじっとうつむいて、何か考えているようでした。
それから、おもむろに口を開き、信じがたいことを言いました。

「嫌いになったりは・・・してません」

・・・わたしは頭をがつんと殴られたようなショックを受けました。
いまでも嫌いじゃない?
わたしたち夫婦をあれほどまでに苦しめた勇次を?
わたしがそこで聞いていることも知らず、妻は言葉を続けました。

「・・・ですが、いまは主人と子供が何よりも大切です・・・あなたとは・・・もう」

「嫌いじゃないなら、寛子はおれにまだ未練があるんだな。
おれだってそうさ。お前のことが忘れられないんだ。
お前が好きなんだよ。なあ、いいだろ、寛子。
自分の気持ちに正直になって、もう一度おれとさ」

谷底に蹴り落とされたような気分のわたしの目に、
勇次の手がすっと寛子の顔へ向かうのが見えました。
その瞬間、わたしはふたりのもとへ飛び出していきました。

 

 

突然、家の中から現れたわたしを見て、
妻は喉の奥からかすれるような悲鳴をあげました。
その怯えた表情が、わたしを無性に苛立たせました。

勇次もさすがにぎょっとしたようでしたが、
すぐに落ち着きを取り戻したようで、じろりとわたしを睨みました。

「またあんたか・・・・」
「何が『またあんたか』だ。ここはわたしの店だぞ・・・さっさと出て行け。いつまで未練がましく、妻につきまとってるんだ」

「未練がましく?」
わたしの言葉を、勇次はふんと鼻で笑いました。
「未練が残っているのは、あんたの奥さんのほうもだよ」

「うるさい!」
「おれはあんたよりも寛子のことが分かってるよ。
だいたい、あんたとの生活に満足してたら、おれと浮気なんかしなかっただろ?
寛子はあんたじゃ物足りなかったんだよ」

わたしは勇次を睨みつけながら、ちらりと妻の顔を見ました。
消えいりたげな様子で身体を縮こませていた妻は、
顔を歪めながら必死に首を横に振りました。

「・・・ちがう・・・」
「何がちがうんだ、寛子。
おれとやってたときの悦びよう、忘れたわけじゃないよな。
おれはたぶん旦那よりも多く、寛子の可愛いイキ顔を見てるぜ。
寛子はセックスが大好きだし、イクときはもう激しくて激しくて、
イってから失神することもよくあったよな〜。
いつかなんか気持ちよすぎてションベンまで」

「言わないで・・・」
「あのときは、おれが恥ずかしがって泣く寛子のあそこをきれいにしてやったよな。
そうしているうちにまた興奮してきちゃって、おれにしがみついてせがんできたのは誰だったけな?」
続けざまに吐かれる勇次の下衆な言葉に、妻はしくしく泣き出してしまいました。

「いいかげんにしろ!」
わたしは怒鳴りました。
怒りがありました。
しかし、それよりもおおきくわたしの心を支配していたのは、救いようのない脱力感でした。

「・・・いますぐに出て行かなければ、警察を呼ぶ・・・ここはわたしの店なんだ・・・お前を営業妨害で」
「わかった、わかった」

勇次は小馬鹿にしたような態度で、わたしに背を向け、店の出入り口へ歩き出しました。
途中で振り向きました。
そして、なんとも形容しがたい厭な笑みを浮かべて、こう言ったのです。

「ああ、そうそう。藤田と村上がまたお前に会いたいってさ、寛子」
そのとき妻があげた、身も凍りつくような悲鳴は、いまでも忘れられません。
勇次はわらいながら、店を出て行きました。

 

***

さて・・・勇次が去ってからも、しばらくは時がとまったようでした。
ふと見ると、通りすがりのひとが数人、店の中を覗き込んでいました。
先ほどのわたしの大声が聞こえたようです。
わたしは黙って、店の戸を閉めました。
それから妻を促して、家の中へ入りました。

居間に入ると、それまで悄然とうなだれていた妻が、いきなりその場へ土下座しました。
声も出ないようで、肩がわずかに震えているのが見えました。

「この前、おれは勇次との間にあったことはすべて話してほしいといった・・・」

妻の身体がぴくりと動きました。
「寛子はすべておれに打ち明けてくれた・・・そうおもっていた・・・」
「あなた! わたしは・・・わたしは」

「まだ話していないことがあったんだな・・・」
抑えがたい怒気のこもったわたしの声に、妻は怯えた顔でわたしを見つめました。
妻は両手を胸の前で合わせ、まるで神仏に祈るときのような格好で頭をさげました。
「ごめんなさい・・・本当にごめんなさい・・・・でも悪気はなかったんです・・・ただ言えなくて・・・それだけなんです」

「言えないとはなんだ。後からこんな形で、お前に問いたださなければならないおれのほうが、よほど惨めだろ・・・」
妻は顔をくしゃくしゃに歪めて、いっそう強く祈るようにわたしへ頭をさげました。

「許して・・・許して・・・・」
「なら、いますぐはなせ! 藤田と村上というのは誰だ!」
妻が涙で頬を濡らしながら、嗚咽混じりに話した内容はわたしをさらに深い奈落に突き落とすものでした。

妻と勇次がまだ付き合っていた頃のことです。
ある日、妻は買い物へ行くとわたしに偽って、勇次の家へ向かいました。
しかし、その日は先客がいたのです。
それが藤田と村上でした。

勇次は、いやがる妻を引っ張ってきて、「これが自分と付き合っている人妻の寛子だ」とふたりへ紹介したそうです。
藤田と村上は興味津々といった様子で、妻を見つめました。
妻は、不倫を犯している自分を、ひとの目にさらされるのが厭で、顔をうつむけていました。
「ほんとだ、このひと、結婚指輪してるわ。おいおい、人妻と付き合ってるって本当だったのかよ」
「だから言っただろ」
そのとき、勇次は得意げに言ったそうです。

しばらくして、か弱げな妻の様子にふたりは図に乗って、様々な質問を投げかけてきました。
いわく、勇次とはどうしてこうなったのか、勇次を愛しているのか、旦那のことはどうおもっているのか———。
さらにふたりの質問はエスカレートし、卑猥なことまで聞いてくるようになっていきました。
勇次とのセックスはどうか、若い男に抱かれるのはやっぱりいいのか、どんな体位が好きなのか———。
屈辱的な質問に、妻はもちろん答えるのをいやがったのですが、勇次がそれを許さなかったといいます。
羞恥にまみれながら、妻は卑猥な内容の質問に答えていきました。
その様子を見ていた藤田と村上はしばらくして、

「もう我慢できんわ・・・須田、約束は守るんだろうな」
妙なことを言い出したのです。

「ああ、もちろん」
「約束って何? ねえ、勇次くん」
不吉な予感に慌てた妻に、勇次は拝むようにして、

「ごめん、寛子! おれ、昨日マージャンですっちゃって、
こいつらにすげえ借金してんだよね。
それで、こいつらが寛子に興味あるっていうからさ・・・
寛子の身体を見せてくれたら、借金を帳消しにしてくれるって言うんだよ」

それまで、自分にやさしくしてくれていた勇次と、
何がしか理由をつけながらも恋人気分を味わっていた妻は、
勇次の鬼畜な言葉に呆然としてしまったそうです。

妻は、激しく抵抗したのだそうですが、
結局は男の力に叶わず、衣服をすべて剥ぎ取られたうえ、
後ろ手に縛られてしまいました。
そして、そのままの格好で、あぐらをかいた勇次の上に座らされ、
両膝の下に入れられた手で股間を大きく開かされ、
剥きだしの秘部を藤田と村上の面前にさらされてしまったのです・・・。

***

藤田と村上はそれから三十分近くも、大騒ぎしながら、
裸の妻の胸をもみしだいたり、
膣に指を入れて弄んだりして、好き放題に妻を嬲ったそうです。

そうしているうちに、いよいよ興奮してきたふたりは、
勇次に「入れてもいいか?」と尋ねました。
やめて——、そう悲鳴をあげる妻の身体を押さえつけながら、勇次は、

「それなら、寛子を気持ちよくしてやって、
自分から入れてって言わせるようにしろよ。
そしたらやってもいいからさ」

そんなようなことを言ったのだといいます。
それからは三人がかりで寛子は、全身を愛撫されました。
小一時間も続いたそれに、すっかり情欲をかきたてられ、
泣き悶える妻の反応をわらいながら、勇次は

「ほら、そこに寛子のお気に入りのバイブがある。
それを使えば、もうすぐに寛子はお前らがほしいって泣き出すとおもうぜ」

そう言いました。そしてそれはそのとおりになったようです。
その日、妻は結局、その場にいた全員に抱かれました。
それも自分から求めさせられて・・・。
・・・妻の告白を聞き終えたわたしは黙って立ち上がりました。
車のキーを取り、外へ出ようとするわたしに妻は、

「待って・・・行かないで」
半狂乱になって、すがりついてきました。
わたしは妻を突き飛ばしました。
妻に暴力を振るったのはそれが最初で最後でした。
畳の上に叩きつけられ、激しいショックを涙の浮いた瞳に浮かべた妻の顔を見据えながら、わたしは絞り出すように言いました。

「マージャンの借金のかたに抱かされただと・・・・それもふたりの男に・・・・
寛子、お前よくもそれで平気な顔であいつと付き合っていられたな・・・・・
そんな屈辱的なことをされても、あいつが欲しかったのか・・・・
さっきもあいつに嫌いになったかと聞かれて、お前は嫌いじゃないと答えていたな・・・
おれは聞いていたんだ・・・・お前は・・・お前という女は・・・・」

あとは声になりませんでした。
妻を玩具のように扱った若者たちに怒りを感じました。
そのことを妻が隠していたことに憤りを感じました。

しかし、それよりも何よりも、そんなことをされてもなお、
勇次を嫌いになれない妻が、わたしは憎くて憎くてたまりませんでした。

呆然と畳に横たわっている妻を残して、わたしは部屋を出ました。
二階で昼寝の最中だった娘を抱いて、わたしは玄関へ向かいました。
途中でちらりと居間を見ると、妻が魂の抜けたような表情で、
先ほどと同じ姿勢のまま、横たわっているのが見えました。
わたしと娘は家を出て、車に乗り込みました。
そのときが運命の分かれ目だったとは知りもしないで。

 

 

娘を岐阜の両親のもとへ預けたあと、わたしは金沢へ向かいました。
行き先はどこでもよかったのです。
ただ、どこかへ向かわないではいられませんでした。

金沢に着いても、兼六園など観光名所を見てまわる気にもなれず、旅館の中で日を過ごし、たまに気が向いたときに、近くを散歩するだけでした。
妻のことを考えていました。

わたしは若いうちから悲観的で鬱々としたところがありましたが、
妻もまた、どこかに独特の暗さをもった女でした。
ふたりが夫婦となったのも、お互いの抱えた陰の部分が響きあったからのような気がします。

しかし、妻が勇次との情事へのめりこんでいったのも、
後に(わたしに言わせれば、ですが)破滅的な生活へと歩みを進めていったのもまた、
妻のそうした性向が関係していたのではないか。
わたしにはそうおもえてなりません。

金沢で無目的に怠惰な日々を過ごしながら、わたしがおもいだすのは、
勇次との爛れた関係に堕ちていった女ではなく、
いついかなるときも、わたしを手助けし、公私共によきパートナーになってくれていた女との思い出ばかりでした。

わたしが帰ろうと決意したのは、十日あまりも過ぎてからのことでした。
結論など出ていませんでした。
これから先のことを考えることすら、忌避していました。
しかし、ただ延々と過去を回顧し、現在から逃げ回ってばかりの自分に嫌気がさしたのです。

両親から娘を受け取り、車で家へ戻る最中、わたしは不安に苛まれながら、家族の行き先を憂えていました。
しかし、隣に座っている娘(両親の話では、母から引き離された十日間あまりの生活で泣いてばかりいたそうです)の顔を見ると、
そんな弱気なおもいではいられない、という気になります。
たとえ、どんな事態になっても、この子の幸せだけは守ってやる。
わたしはそう決意し、その決意によって不安な自分を奮い立たせていました。
わたしのおもいなど、露知らず、娘は久々に母親に会えるうれしさで、無邪気にはしゃぎまわっていました。

しかし———。
家に着いたわたしたちの前に、妻は姿を見せませんでした。
いくら待てども、帰ってきません。

妻は消えていました。
泣きわめく娘を残して、わたしは勇次の部屋へ走りました。
勇次の部屋は空でした。
管理人のお爺さんの話では、少し前に出て行ったそうです。
勇次の履歴書にのっていた学校へ電話しましたが、勇次は学校も辞めていました。
妻と勇次はこうしてわたしたちの前から姿を消しました。

 

妻が消えた後の生活は、それは悲惨なものでした。
娘は母親を恋しがって泣きます。
虚脱感に襲われ、すべてに疲れてしまったわたしは、それをぼんやり聞いているだけで、慰めてやることもできません。
それにどう慰めればいいというのでしょうか。

「そのうちにお母さんは必ず帰ってくるから・・・」
そんな言葉を口にするには、わたしはあまりに打ちひしがれていました。
夜になり、かつては隣に妻のいた寝室、ときには夫婦で幸せに睦みあった寝室で、
ひとりわたしが寝ているとき、様々な妄想がわたしを苦しませました。

勇次に貫かれ、喜悦の声をあげて、のたうちまわる妻。
勇次の友人とかいう男たちと、次々に絡み合い、淫らな奉仕をする妻。
そんな妄想が夜毎にわたしを灼きました。
妻が消え去って半年たった頃のことです。
意外な人物が店に現れました。
勇次でした。

 

「奥さんがあんたと別れたいと言ってる」
勇次は単刀直入にそう切り出しました。
わたしは沈黙しました。しばらくして、
「寛子は」
かすれた声で言いました。
その声は他人のもののように、そのときのわたしには聞こえました。

「やはりお前といるのか・・・」
「いるよ。ずっと一緒に暮らしてる」
勇次は店の中の、高い棚の上にある品物を取る台の上に、どっかりと腰掛けました。

「奥さんがいきなり駆け込んできたときはびびったよ。
ベロベロに酔っ払ってて、もう泣くわ泣くわ。
ひとしきり泣くと、今度はしがみついてきてさ。
それからはもうぐちゃぐちゃ。
あんまり激しいんで、おれもつられてそ〜と〜燃えたけどね・・・しばらくしたら、
酔いが回りすぎたらしくて、
トイレで一回吐いてきて、でもそれからまた、
もう蒼い顔になってるってのに、おれを放さないんだよ。
次の日の昼もずっとやってたね。
あんなに凄いセックスはしたことないよ」

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