「あーあ。」
今度は彼女が言いました。
「何だよ、君だって言ってるじゃないか。」
私がそういうと、私たちは一緒に笑いました。
それから私たちは、昔よく行ったイタリアン・レストランでランチを食べ、街を散歩しました。
そして自然とホテル街の方に歩いて行き、どちらが誘うともなくその中の一つに入っていきました。昔私たちが使っていた頃と違って、ずいぶん垢抜けた感じがします。
部屋に入るまでは二人とも無言でしたが、部屋に入ると、私は彼女を強く抱きしめました。
彼女も私の背中に腕をまわして応じます。
しばらく抱き合ってから、やっと離れると、私はもうたまらず彼女を静かにベッドに倒し、唇を重ね、彼女の舌を求めました。
そうしながら、私の手は、彼女の体を確かめるようにブラウスとスカートの上を這い回りました。
私たちは、お互いの唇を求め続けながら、お互いの服を脱がせ、そして交わりました。
彼女の中の奥まで挿入し終わると、私は痺れるような幸福感の中で彼女の中の感触を味わうようにじっとしていました。
「どうしたの?勝手が違う?」
彼女が耳元で囁きました。
「いや、すごく気持ちいい。」
それは本当でした。
久しぶりだということもあったのかもしれません。でも、それ以上に彼女の体は「美味しく」なっていました。
それから私は、頭の芯が溶けてしまいうな快感に陶酔しながら彼女の中で動き続け、何度も何度も求め続けました。
「中はダメよ。」と彼女が耳元で言うので、私は彼女のお腹の上に射精しました。
それは、これまでに経験したことのないような激しい射精でした。
私が彼女のお腹にたまったザーメンを丹念にティッシュで拭って上げると、私たちはベッドの上に並んで仰向けになり肩で息をしていました。
「わたしたち、不良だわ。」
彼女が上を向いたまま笑いながら言います。
「そうだな。」
私も同意しました。
「でも、あなたの方がもっと不良だわ。」
「どうして?」
「だって、あなたが家に来なければ、わたしはこうなってなかったわ。」
「後悔してる?」
「あの人に悪いことしたと思ってる。」
彼女の口から出た、あの人という言葉に私の胸は疼きましたが、私も心の片隅で同じことを今の妻に感じていました。
それにしても不思議なものです。彼女と一緒だったときは、セックスに何の後ろめたさものはなく、ある意味でそれは日常の一部でした。
ところが、今は彼女とのセックスに罪悪感さえ感じている・・・。もちろん、それはどこか甘美な罪悪感でしたが。
それから私たちは、また求め合い、私は彼女の体を貫き、彼女は私の背中にに爪を立てました。
さっきと違い、今の私は別の想念に突き動かされているのを感じました。
今こうやって自分が抱きしめている彼女は、さっき彼女が「あの人」と呼んだ男のものであって、その男は毎夜この体を組み敷き、悦びの声を上げさせているのだ・・・。
その想念は私の中に黒い嫉妬の炎を燃え上がらせ、私に彼女の体を責め立てさせました。
私が二度目の射精を迎えたとき、彼女は、「ほんとにあなたどうしちゃったの。こんなの初めてだわ。」と肩で息をしながら言いました。
それから私たちは、二人一緒に、ぬるめのお湯でゆっくりとお風呂に入り、バスタブの中で何度もキスをしました。
私は彼女の乳首を口に含み、しっとりしたきめの細かい肌の上を唇を滑らせながら、いいようのない安らぎを感じていました。
ホテルを出て、私は駅まで彼女の車で送ってもらいました。
車を降りるとき、私たちは軽く口づけを交わし、私が「また、会ってくれる?」と聞くと、彼女は「ダメよ。」と前を向いて言いました。
「わかった、また連絡する。」
「仕方のない人ね。」
と彼女は笑いながら言いました。
私は、彼女の車が去るのを見送ると、時計を見ました。
まだ、会社が終わる時間には早すぎるので、書店に寄り本を何冊か買って喫茶店でしばらくそれを読んでから帰宅しました。
——————–
それから私は、一週間か二週間に一度くらい、なんとか理由を作っては、会社を早退して彼女と会い、ホテルで愛し合いました。
彼女の夫が出張のときは、私も出張が入ったことにして彼女の家に泊まったこともあります。
そして、彼女と夫が夜の営みをするベッドで彼女を抱きました。
今の彼女とのセックスは、結婚していたときとは比べ物にならないほど濃密で激しいセックスで、愛し終わった後は二人とも言葉も出ないほどでした。
それはまるで限られた時間の中で すべてのものを燃焼し尽くそうとするかのような、体を焼け焦がすようなセックスです。
結婚していた頃、私は、そんなに燃える彼女をのを見たことがありませんでしたし、彼女とて、短い時間に何度も何度も求め続ける私を驚きのまなざしで見ていました。
でも、人妻となった彼女が毎夜夫に貫かれ声を上げている様子が目に浮かび、本当に異常なくらい、私は いくら彼女の体を求めても飽き足らず、私は狂ったように彼女の奥へ奥へと自分を突き立てていきました。
——————–
その日も、偽装出張で彼女の家に泊まった私は、夫婦のベッドの上で二人とも精根尽き果てるまで交わり続け、最後の射精を迎えて、彼女の体を清めて、そのままベッドの上に仰向けになっていました。
「俺たち、別れたの間違いだったよ。」
「・・・。」
彼女は黙ったまま私の乳首に指を這わせています。
「なあ、そう思わないか。」
私が繰り返します。
「さあ、多分そうかもね。」
彼女がひと事のように返事をしました。
「やり直せないかな?」
私は体を起こして、彼女の方を向いて言いました。
すると彼女の表情が険しくなり、
「何をいい加減なこと言ってるの。あなたには大事な奥さんと子供がいるじゃない。彼女たちをどうするつもりなの?わたしだって、あの人がいるわ。わたしには大事な人よ、わたしを必要としてもいるわ。」
「じゃあ、なんで俺と会ってるんだよ。俺はなんなんだよ。」
「あなたは・・・。あなたもわたしにとって必要な人よ、今となっては。でもね、それは別のわたし。あなたとわたししか知らないわたし。あの人も知らないわたしなの。わかる?」
「前夫が今やただの間男ってわけか。」
「そう思いたいならそれでもいいわ。でも、わたしにとってはあなたも大事、でもあの人も大事なの。あの人を欺けないわ。」
「もう十分欺いていると思うけどね。」
私はちょっと皮肉っぽく言いました。
「ご心配なく。わたしは、これからもずっとあの人のものだから。その事だけは欺かないわ。」
その言葉に打ちのめされた私は、再び彼女の上に重なり荒々しく挿入すると衝動に突き動かされるままに彼女を責め立てました。
そして、いつの間にか私の頬を涙が流れ、彼女の額に落ちていました。
私は、彼女の頬に自分の頬をつけ、
「俺にはお前が必要なんだ、お前が。だからもう一度俺のものになってくれ、お願いだよ・・・。」
私は泣きながら彼女に訴えました。
すると彼女は私の耳元で、
「大丈夫よ。私はここにこうやっているから。いつもは難しいけど、でもこうやって会えるし。あなたのことも愛してるわ。だから、あなたは彼女と子供を大事にしてあげて。」と優しく言いました。
私は、彼女の上に重なったまま、しばらく嗚咽していました。
彼女は、そんな私の背中を、まるで子供をなだめるかのように撫で続けてくれました。
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それからも私は前妻と会い続けています。
もちろん細心の注意を怠らないようにしながら。前妻も、今の妻も悲しませたくないですから。
でも、今の私には前妻がどうしても必要なんです。
事情を知らない人が、いや事情を知っている人だって、なんて調子のいい奴なんだと怒るかもしれませんが、どうしようもありません。
こんな生活がいったいいつまで続くのか私にも分かりません。
彼女か私のどちらかが死ぬまで続くのかもしれません。
彼女が言うように、二人のことはそれぞれの墓場まで持っていくしかないのかもしれません。
でも、それも仕方がないことと思っています。
いったいどうして私の人生はこんなふうになってしまったんでしょうか・・・。
ときどき私は考えます。
でも、意外と人生ってそんなものかもしれません。
それに皮肉なことですが、今みたいに深く前妻のことを愛したことは、これまでにもなかった気がします。
つまらない男の話を、ご静聴ありがとうございました
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