大学入学して間もなく入ったサークルで、加奈という女の子と出会いました。
 そのサークルは大層な名前のわりに、実は単なる飲みサークルで、
 俺は最初の頃ちょっと戸惑いました。
 一方、加奈も友達に誘われるがまま、よく分からず入ったとの事。
 おとなしい性格の彼女は、軽いノリや騒がしいのが苦手みたいで、
 周りの雰囲気についていけてない様子。
 お互いそういうところの波長が合ったのか、
 また俺と加奈とはサークル内で唯一、学部が同じだったのもあり、
 いつしかサークルでも授業でもよく一緒にいるようになりました。
 ややもするとサークルにも馴染んできました。
加奈は素朴で可愛くて、一緒にいると何か落ち着くんです。
 俺はそのうち加奈の事が好きになりました。
 夏休み前に俺は意を決して彼女に告白。
 実は俺はそれまで女の子と付き合った事なかったし、
 告白なんかして、もしふられちゃったら、
 もう友達でもいられなくなると恐れもした。
 当時の俺にしては相当の覚悟をもって臨んだわけだが、
 拍子抜けするほどアッサリとOKをもらい付き合う事になった。
 加奈も俺の事が前から好きだったと言ってくれ、本当に嬉しかった。
大学、特にサークルでは多くの友人が出来ました。
 その中でも中井という男とは行動をよく共にした。
 学部は違うが学年は同じ1年生。でも彼は浪人しているので年齢は1つ上。
 社交的な面白い奴で、サークルでもすぐに中心的存在になった。
 格好も良く、女関係も派手な遊び人でもあったが、
 彼だったらモテるのも許せるなって思わせるほどイイ奴だった。
 すべてが俺とは全く対照的ながら、ウマが合った。
毎日が楽しかった。
 そんな中ただ俺の悩みの種というか、ちょっと気にかかっていたのが、
 加奈と中井の仲が悪かった事です。
 と言うか、単に加奈が一方的に中井を嫌っていたのだが。
 ちゃらちゃらした性格が嫌いな彼女。
 決して中井は軽いだけの奴ではなかったのだが、
 加奈の目にはそうとしか見えなかったみたい。
 またサークル内でも平気で抱いた女の話をする中井が、
 彼女は生理的に受け付けなかったようだ。
 中井もそういった加奈の態度を感じとり、加奈を苦手としていたようだ。
二人の間で板ばさみってほどでもないが、
 中井が来れば加奈はいなくなるし、
 加奈が来ると中井は遠慮がちになる。
 俺としては自分の彼女と一番親しい友達と、やっぱり仲良くしてもらいたい。
 俺は俺なりに二人に気を遣い、仲を取り持つような事をいろいろした。
 それが徐々に功を奏したのか、次第に二人は打ち解けてきた。
 加奈が中井について抱いていた感情は、
 偏見と誤解からきたものがほとんどだし、
 中井は彼女が思っているような悪い奴じゃない。
 その辺りが加奈にも段々と分かってきたんだろう。
 中井はもともと加奈に悪意なんか抱いてなかったんだし。
2年になる頃にはかつての険悪なムードが嘘のように仲良くなり、
 3人で遊びに行くこともたびたび。
 中井は大学の近くで一人暮らししていたのだが、
 俺と加奈の二人で泊まりに行ったりもした。
ただ中井の女癖については、加奈は許せなかったようで、
 たまに本気で激論を交わしたりしていた。
 まあ、それは仕方ないわな。
 俺のそこまでの大学生活は、良い人間関係に囲まれていた。
あれは2年の夏休みが終わりに差し掛かった頃、
 俺が家でまったりとしていると、中井から電話がかかってきた。
 中井、「大学の近くの飲み屋にいるから来てくれ」と。
 うちから大学まで一時間くらいかかるし、しかももうかなり遅い時間。
 面倒なので俺は断った。
 中井のこういう突然の誘いはよくある事で、断ればいつもは無理強いしてこない。
 しかしこの日は珍しくしつこかった。
 話したい事があるみたいだし、ついに俺も根負けして嫌々ながら行く事に。
 飲み屋に着いた時にはすでに夜の11時をまわっていた。
 中井とはカウンターで飲んだのだが、
 話があると言ってたくせに、世間話ばかり。
 でもまあ、話なんて呼び出す口実だろうと、余り深くは考えなかったけど。
そして閉店時間が近づいてきた時、ふいに中井が言った。
 「あのさあ。俺と加奈ちゃん、付き合う事にしたから。」
 「は?」
 俺はこいつは何を言い出すんだと思った。
 加奈は俺の彼女じゃないか。
 俺と加奈がどれだけ好き合ってるか、知らないお前じゃあるまい。
 例えお前が加奈のこと好きになったとしても、
 加奈はお前になびいたりしないよ、と俺は口にはしなかったが、思った。
 中井はこう続けた。
 「実は今、加奈ちゃん、俺の部屋にいるんだ。」
 そして中井は間髪いれずに言う。
 「お前に悪いと思ったが、実は加奈とは一ヶ月ほど前から関係があるんだ。」
 まさか!それを聞いた時は本当にビックリした。
一ヶ月前から関係って・・・。俺は加奈とはその間にも何度か会った。
 しかしそんなの俺は全く気付かなかった。
 しかも一昨日、俺は加奈とデートしたばかりだ。
 もうその時には中井に抱かれた後だったのか。
 そして中井と付き合う決心をした後だったとは。
 全く気付かなかった。いや、思い返しても加奈におかしなそぶりはなかった。
一ヶ月前、中井がお盆に実家の九州に帰省する前日に、
 加奈を誘って二人でこの飲み屋に来たらしい。
 何故かその時、俺は呼ばれていない。
 いつからか二人はお互い口に出さないものの、
 密かにひかれ合っていたようだ。
 二人には下地が出来上がっていたのだろう。
 そしてその日の飲みで二人は、その気持ちを口に出してお互い確認し合い、
 結局その後、中井の部屋で朝まで何度も愛し合ったそうな。
中井はその朝、九州に帰省した。加奈は空港まで見送りに行ったとさ。
 中井が九州に行って数日後、何と加奈が中井を追って彼の住んでる町まで来たらしい。
 中井の帰省なんてたかだか2週間程度だろうに、大袈裟な事だ。
 しかし中井は嬉しかったのだろう。
 中井は連日、加奈をいろいろと案内し、地元の友達に彼女を紹介てまわった。
 加奈は最初は自分で予約したホテルに宿泊していたのだが、
 最後は中井の実家に泊めてもらったらしい。
 つまり中井は親にも恋人として紹介したと言う事だろうか。
 そして二人でこっちに戻ってきた。
 それから何週間か過ぎ、今日に至る、と。
飲み屋でここまで詳しく中井が俺に話してくれたワケでない。
 俺が後でいろんなところから聞いた話を、まとめてみた。
ちなみにその加奈の九州行きは、
 俺はしばらく祖父母の田舎に行くと聞かされていたんだが・・・。
何にせよ、知らぬは俺ばかり、
 もはや二人にとっての障害は俺だけになっていたようだ。
話を中井と俺の飲み屋に戻す。
中井と加奈はもう心は定まっていたんだろうけど、
 俺にしてみれば突然の事で心の準備も出来てない。混乱した。
 中井は凍っている俺の横でしきりに、
 自分がいかに加奈が好きかとか、俺に対する罪悪感がどうとか、
 もっと早く言うべきだったが言い出せなかった、などなど、
 何かごちゃごちゃ言っていた。
 俺は、「うるさい」とか「ふざけるな」とか、
 そんな答えしか返せなかった。
「分かった。加奈も呼ぼう。三人で話し合おう。」
 と、中井。今までは「加奈ちゃん」って呼んでたのに、
 気付けば「加奈」って呼び捨てだ。
 しかし一体何を話し合うと言うのだろうか。
 三人で話し合いと言うより、
 お前らが決めた事を俺に認めさせたいってだけだろう。
中井は飲み屋から部屋で待機している加奈に電話した。
 そして近くの公園で三人で会う事となった。
 飲み屋から公園まで数分、俺も中井もずっと無言だった。
 俺の中ではいろんな感情が渦巻いていたよ。
 中井に抱かれる加奈を想像してへこんだ。
 二人して俺を欺きやがって。
 こんな事なら加奈が中井を嫌ったままにしておけばよかった。
公園に着いた。加奈はすでに来ていた。
 知ってしまうと不思議なもので、一昨日会った加奈とは別人に見えた。
 加奈は泣いていた。そしてずっと俺に謝っていた。
 「ゴメンね・・・あなたの事、嫌いになったワケじゃないの・・・でも・・・」
 中井は加奈の横で沈痛な顔をして黙っていた。
 怒りやら、悲しみやら、惨めさやらで、ホント狂いそうな気分だった。
嫌われて捨てられた方がどれだけましか。
 加奈は俺も中井も好きで、それでも中井を選んだって事か。
 中井より俺が劣っている事は自覚しているが、残酷な選択だ。
 俺と別れて中井と付き合うなら、嫌だけど、仕方ない。
 でも俺と付き合いながら中井ともセックスして、
 その後で俺と別れるなんてフェアじゃないだろ、そんなの。
加奈はそれ以上は何も言わず、ただただ泣いて謝るばかり。中井無言。
 10分くらいずっとそんな調子だった。
 さすがに俺も業を煮やし、「分かったから、もう行けよ。」
 結局、そう言わざるをえなかった。「話し合い」は終わりだ。
中井は俺にもう終電ないのを気遣ってきたが、
 放っておいてくれと二人を追い払った。
 「スマン。・・・じゃあ、行くわ。」
 と言って加奈と一緒に行ってしまった。
 俺は二人が公園を出て行く後ろ姿を見ていたら、
 心が冷めていくのを感じた。
しばらく公園で一人ぼんやりした後、歩いて帰りました。
 家は遠いので途中で歩きは断念して、適当な駅のベンチで始発を待ちました。
夏休みが終わって久しぶりにサークルの部室に顔を出した。
 ああいう事があったせいで、ホントは余り人前に出たくなかったんだけど、
 まあ、意地と言うか何と言うか、努めて平穏を装い皆と談笑した。
 するとしばらくして部室に中井が入ってきました。
 一瞬、部室の空気が重くなったのを感じた。
 あ、サークルの皆にもう噂は広まってるんだと思ったよ。
 でも中井はいつも通りでした。俺に対しても。だから俺もいつも通り振舞った。
結局、中井とは卒業まで変わることなく友達関係を続けた。表面上は。
 彼も俺に気を使ったのか、合コンに誘ってきたり、女の子紹介してくれたりした。
 だけど、何か加奈の代わりをあてがわれているようで、すべて断った。
一方、彼女はサークルにほとんど顔を出さなくなった。
 俺との事があるからだろう。そしていつしか全く来なくなった。
 ただ俺とは同じ学部だし、よく教室とかで会った。
 向こうから話し掛けてきたら俺はそれなりに対応したが、
 ただ俺は極力、加奈を避けた。つらかったんだ。
 そうしているうちに段々と疎遠になって、
 そのうち会っても挨拶もしなくなった。
 まあ、3年以降は授業が重ならず、あまり会う事もなくなった。
 ただ遠くに加奈の姿を見かける事はあった。
 その度に胸が締め付けられた。
中井と加奈の付き合いは続いたが、
 在学中に俺の知っている限り少なくとも3度、中井は他の女に手を出している。
 一度、中井の浮気がバレて大喧嘩をして二人は別れたが、
 いつの間にかよりを戻していた。
中井は無神経なのか天然なのか、平気で浮気話や相談事を俺にもちかけてくる。
 そういう話を聞かされる度に、お前はそれだけ女に恵まれているのに、
 何で俺から加奈を奪ったんだって思った。
 でも言わなかった。
また中井はサークルの仲間うちで、
 加奈との情事を平気で皆に話したしていたようだ。
 たまに俺がいるのに話し出す事もあった。
 俺が不愉快な顔をすると、それに気づいて、後でこっそり謝ってくる。
 そういう事がたびたびあった。悪意はないんだろうけど。
俺は気にしないようにしていたし、吹っ切れたふりをしていたが、
 本当は在学中ずっと加奈の事を引きずっていたんだ。
 でもそれを認めると惨めになるから、強がっていただけだ。
 あんな女嫌いだ。だから中井にくれてやったんだ。
 だから俺は全然平気なんだって、無理やり思い込もうとしていた。
中井は大学卒業後もよく連絡をくれたし、たまに会った。
 中井は俺の事をずっと親友と思っているのだろうか。
驚く事に二人はまだ付き合っていると聞く。
 離れたりまた引っ付いたり、波乱万丈、紆余曲折のようだ。
 いい歳して結婚もせず職も転々としている中井と加奈。
 あまり二人とも大学時代から成長していないようだ。
加奈とも卒業後いつだったか、一度だけ会った。
 もちろん中井も一緒に三人で。
 すれてしまったなあ、疲れているなあ、
 と言うのが俺がその時の彼女に抱いた印象だ。
 でももうどうでもいい。
と、こんな感じです。
 一応エロを入れようと頑張ったんだが、
 どうやっても入れられず、深刻になってしまった。
 すいません。
ちなみに俺はと言えば、
 結婚して子宝にも恵まれ、幸せに暮らしているよ。
 嫁と出会えてホントに良かったと思う。


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